胃内容分析は小型歯鯨類の食性研究に多く用いられているが、この方法では単位時間当たりの餌消費量を推定することは困難である。しかし、餌生物の消化時間と消化段階が明らかになれば単位時間当たりの餌消費量の推定が可能となるだろう。本研究では小型歯鯨類の胃内消化速度を明らかにすることを目的とした。方法として、沖縄美ら海水族館で飼育されているミナミハンドウイルカに餌一尾を給餌してから一定時間後に胃内視鏡を挿入し、食道胃内容物の観察を行うこととした。餌には体長約18cm、重量約110gのアヤトビウオと体長約23cm、重量約190gのマサバを用いた。 その結果、アヤトビウオは給餌後30分で表皮が消化され、60〜90分で鰭や筋肉が消化、90〜120分で胃が消化された。ロジスティック回帰により分析した結果、50%の確立で肉質部が完全に消化される時間の推定値は83分であった。一方、マサバは給餌後30分で表皮および鰭が消化され、さらに肉質部の表面まで消化が進行していた。60分ではさらに肉質部の消化が進んで腹部の開口などにより形がくずれ、90分で内臓の一部を除き肉質部の消化が完了し、120分で消化の最終段階に至ることが観察された。アヤトビウオとマサバでは、消化段階の途中では若干の時間差が見られたが、最終的な完全消化までの時間は大きな差は無かった。今年度の研究ではマサバについては実験例が少なく統計解析が不可能であった。さらに実験を重ねていく必要がある。
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