胃内容分析は小型歯鯨類の食性研究に多く用いられているが、この方法では単位時間当たりの餌消費量を推定することは困難である。しかし、餌生物の消化時間と消化段階が明らかになれば単位時間当たりの餌消費量の推定が可能となるだろう。今年度の計画では、胃内に残存しやすいと考えられている餌の硬組織について、その食道胃内滞留時間を明らかにすることとした。実験にはスルメイカの口球を30個詰めたスルメイカ外套膜を実験用餌として飼育下のイルカに給餌した。その後約120時間まで断続的に飼育プールの底に潜って吐出された顎板を回収した。全数が回収されない場合には96時間後以降に内視鏡を食道胃に挿入し、顎板が食道上胃に残存しているか確認した。予備的な実験を含めて計6実験セッションを行った。その結果、大部分の顎板は給餌後約24時間で排出され、72時間後にはほぼ全ての顎板が排出された。顎板には上顎板と下顎板があるが、下顎板の方がやや早く排出される傾向にあった。平均の排出時間は約33時間であった。排出にはほぼ24時間ごとの周期性があることも予想された。これには飼育環境下にあるが故の影響も含まれていると考える必要もあるため、直ちに野生個体の胃内容物分析に結果を適用することはできないが、おおよそ胃内容物に含まれる顎板は一日分の採餌を反映していると考える事が出来る。 上記の実験結果の一部を含む、これまでの成果について取りまとめ、2011年11月から12月に米国フロリダ州タンパ市において行われた19th Biennial Conference on the Biology of Marine Mammalsにおいて成果発表を行った。
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