コイ遺伝的全雌群当歳魚に対する雌性ホルモン合成阻害剤持続投与実験を実施した。従来使用していた薬剤(塩酸ファドロゾール)が入手困難となったため、別種の阻害剤であるエキセメスタンを用いた。孵化後40日目より投与を開始し、孵化後5ヵ月後に生殖腺組織像を観察したところ、卵巣腔形成不全は観察されたものの精子形成を示す組織学的兆候は確認できなかった。このことは従来の過年魚(卵巣分化終了魚)における結果と合致していない。この相違が使用薬剤の変更によるものか(他魚種ではエキセメスタンの有効性は確認されている)、投与開始時期の違いによるものかを確認するため、その後も投与を継続しており、今後も継続的に観察する予定である。熊本大学との共同研究によりメダカにおいて性分化期における高温飼育により遺伝的雌魚において精巣の分化が誘導されること、同様の現象がストレスホルモンであるコルチゾール投与によっても誘導されることが明らかとなった。この結果はストレスが魚類の性分化に影響を及ぼすことを初めて明らかにした。しかし、コイにおいて水温35℃で高温ストレス負荷実験を行ったが、生殖腺の精巣化は確認できなかった。東北大学との共同研究によりコイ遺伝的超雄(YY)と遺伝的雌(XX)との間において、ゲノム比較法による性特異的ゲノム領域の探索を行った。その結果、これまでに両者に対して複数の候補領域のクローニングに成功した。今後これらと性との連鎖を確認できれば、性特異的遺伝子マーカーとして遺伝的性の検証に利用するだけでなく、水産養殖の現場における早期雌雄判別などへの応用も視野に入れて研究を展開する予定である。
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