研究概要 |
1.前年度に引き続き、アカザラガイ精巣から抽出しだゲノムDNAをテンプレートとしたPCRにより、トロポニンI(TnI)遺伝子の構造解析を進めた。今年度は、TnIのN端側をコードする11,810bpの塩基配列を決定した。この領域は、大部分がイントロンであり、このイントロンは、横紋閉殻筋における主要アイソフォームである52K-TnIおよび平滑閉殻筋に多く比較的高温の条件でも機能できる19K-TnIの、両方のmRNAに共通する配列と、19K-TnIのmRNAのみに見られる配列から成るエキソンに挟まれていた。さらにこのイントロンに、近縁二枚貝であるアズマニシキのHSP70遺伝子の塩基配列と相同性を示す部位が見出された。HSP70は熱ストレスで発現誘導されるタンパク質であることから、この配列がTnIアイソフォームやHSP70の温度依存的な発現制御に関わっている可能性も考えられた。 2.軟体動物トロポニンの分子作動機構についての知見を得るため、52K-TnI(全長292残基)の種々の部位に唯一のCysを導入した変異体を作成し、二価性光架橋試薬(BP-Mal)でラベル後、トロポニンC(TnC)およびトロポニンT(TnT)と共に再構成トロポニンとし、さらに光照射後、架橋産物を分析することで、それぞれの部位がいずれのサブユニットと近接しているかを検討した。その結果、52K-TnIのみに存在する残基8、26、48、73、90、および115はいずれもほとんど架橋産物を生じず、これらがTnCやTnTから空間的に離れていることが示された。一方、両アイソフォームに共通する残基147、149、160、並びに162は主にTnCとの架橋産物を生じ、さらにこれらの残基とTnCの距離はCa^<2+>依存的に変化していることが示された。また、残基200および266はCa^<2+>の有無に関わらずTnTに近接していた。
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