研究概要 |
本年度は主として理論モデルの考察,実証モデルの定式化およびその推定法の考案をおこなった。理論モデルの考察では,農業生産において家族労働のみを利用し,農業労働時間と賃金労働時間が世帯効用関数において不完全代替であるために分離不能となる農家モデルをとりあげた。従来の農家モデルに関する(特にマイクロデータを利用する)研究では上記の不完全代替性が軽視されてきたように思われるが,経済発展過程の文脈で解釈すればこの仮定は一定の意義をもつと考えられる。経済発展の初期では農業労働と同質な(あるいは同等な)賃金雇用機会しか利用できないが,経済発展が進むにつれ,農業労働とは異質の賃金雇用機会が利用できるようになり,世帯の効用関数(したがって労働供給行動)に異なる影響を与える。実証モデルの定式化では,農家世帯は同一タイプの世帯員(例えば成人男子)を複数人含むことがある点を指摘し,この点を改良するため世帯の特徴を表す変数を労働供給関数に含める必要性などを考察した。実証モデルの推定法の考案では,上述の不完全代替性と(特にマイクロデータを利用するときに)性別を同時に考慮して労働供給関数を定式化および推定する問題をとりあげた。それらの推定は複雑であるが,一つの可能性として農業労働時間を条件付きとする賃金労働供給関数を定式化し,生産面における農業労働需要関数(あるいは生産関数)と同時推定する方法について考察した。この方法は現時点では未完成であるが,ノースカロライナ州立大学農業資源経済学部の研究者との議論およびその後の考察を通じて,推定方法としての質が高まってきたように思われる。
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