研究概要 |
本年度は,労働供給行動に関する農家モデルを個票データにより推定する場合を想定し,モデルをより適切に表現し,推定するように二つの改善をおこなった。第一に,農家の世帯主が農業に従事しながら市場労働(賃金労働)にも従事するモデルにおいて,農業生産の収益率と世帯主の市場労働に対する意欲の相互依存関係を表現して測定することを目的とし,実証法を改善した。主な発見としては,世帯主が市場で働くか否かにより二つの変数の相互依存関係の表現が異なり,この差異を明確に考慮した実証法が必要になることである。実際,2002年の中国農家の個票データによりモデルを推定した結果,この差異を考慮する場合には市場労働意欲が農業収益率に正の効果を与えるが,考慮しない場合には負の効果を与えると推定され,相反する政策的意義が得られた。第二に,上記と同様の世帯主が希望どおりに市場へ労働供給できるのか,市場で上限時間の制約を受けるのかを不均衡モデルで表現し,制約を受ける理由を考察することを目的として,実証法を改善した。主な改善としては,従来の研究では個人が市場に労働供給しない場合を想定しなかったが,多くの農家世帯員が市場で働かないことを重視し,この点を想定する推定法を考案した。主な発見としては,上記と同じ個票データにこの方法を適用した結果,経済発展が速い地域では世帯主が上限制約を受ける割合が比較的高く,遅い地域ではその割合が低く,それは主に世帯主の労働意欲の大きさに依存することである。
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