研究概要 |
本研究課題では、わが国における生鮮果実・果実加工品の海外販路拡大に関して、計量的かつ実証的に分析した。分析の結果、下記の諸点が明らかにされた。 第1章では、栃木産にっこりととちおとめが、香港やバンコクの如何なる購買層に評価されるのか、プロビットモデルを推計し、考察した。まず、香港・バンコクにおける国産ナシ品種と国産イチゴ品種の認知度は非常に低かった。今後、栃木産にっこりととちおとめ輸田する際は、輸田専用パッケージ等による品種のイメージアップを図る必要があるだろう。 そして、とちおとめは香港では大きさが、バンコクでは香りが評価された。そして、にっこりは中高年層に、とちおとめは女性に評価が高かった。 最後に、香港でのにっこりの価格は中国産ナシの4倍、バンコクでのとちおとめの価格はタイ産イチゴの7倍の価格差があった。そして、香港ではにっこりは8割弱が、とちおとめも7割弱が、調査当日の小売価格または若干高くても購入するという回答が得られた。ただし、バンコクでは8割弱が、調査当日の店頭小売価格ならば購入しないという結果となった。そして、プロビットモデルの推計結果から判断するならば、今後の香港でのとちおとめ輸田は、中高年層をターゲットとし、食味評価の高い女性を如何に購買層に取り入れるかが輸出拡大のカギとなるだろう。 第2章では、伊勢丹スコッツ店における栃木産巨峰の輸出動向とその来客の消費意識について考察した。 同店において、日本産ブドウの評価自体は非常に高いが、栃木産巨峰の低価格性が求められた。ただし、日本人客の多い同店のようなケースでは、高価な日本産巨峰は安価なオーストラリア産と棲み分けられていた。シンガポール人の味覚や安全性の拘りも日本人とは異なっているのだが、シンガポール人による日本産巨峰の評価は非常に高い。そのため、今後の輸出は、早急に価格改定するというよりは、脱粒(巨峰の粒が茎から落ちること)・茎枯れ(鮮度が落ちて茎が枯れる)しないといった鮮度の向上や種なし巨峰販売といった手法で、ターゲットとする販売層(消費者層)を明確に意識したマーケティング活動が不可欠となるだろう。 そして、同店の栃木産巨峰の販売拡大のカギとなるのは、日本人以外の巨峰購入のリピーターを如何にして拡大するかにかかっている。同店は、日本人客も比較的に多いのであるが、実際に購入回数が多い客は日本人が圧倒的に多く、大
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多数のシンガポール人に認識されるには至っていない。今後は、低価格性や甘味、そして鮮度を意識した栃木産巨峰のイベント等によって、シンガポール人に選好される巨峰販売を実施する必要があるだろう。 第3章では,青森産混濁リンゴジュースの海外輸出拡大を目的とし,海外消費者の嗜好性を考察した。そして青森産が如何なる購買層に評価されるのか,その要因を分析した。 まず,海外消費者は必ずしも国産品や品種に拘りはないが,無添加を求める者が7割と多かった,青森産は5割に評価された。 次に,消費嗜好を属性別に検定した結果,国産品は高所得国の人に,単品種は若い人に好まれたが,単品種や混濁ジュースは高所得国以外の人に拘りはなかった。また,品種問の評価が最も高かったのはふじであり,高所得国以外の若い人に評価された。他方,シナノゴールドは年齢の高い人に,むつは食料の知識が豊富なバイヤーに評価された。 更に,個別評価項目と総合評価との関連性を考察した結果,色が最も評価され,糖度と同様に,香りも評価された。ただし,青森産の購入意思を調査した結果,購入意思がない人が3割弱を,購入意思はあるが価格プレミアムを感じない人が6割を占めた。他方,ふじ等とシナノゴールド等の価格差が妥当である人は3割弱に過ぎず,評価の高いシナノゴールドでも価格差が妥当でない人が4割弱を占めた。 加えて,購入意思と個人属性の関係を考察した結果,年齢が高く,大卒でアジア諸国の人ほど価格プレミアムを感じていなかったが,特に大卒やアジア諸国の人はその傾向が強かった。アジア諸国に輸田する際は十分な価格調査と適切な販売チャネルの選択が必要となるだろう。 第4章ではとちおとめの香港輸田と消費者意識について考察した。 一田YATAでは,日本産の購入経験は8割弱と多かった。そして日本産の購入経験者は日本産を他国産より高く評価した。他方,購入未経験者の方が日本産を評価するため,今後は購入未経験者にも購入してもらえる日本産を提供する必要がある。他方,香港人の日本産に対する階級イメージは大粒だが,必ずしも大粒を好むわけではなかった。あまおう等の大粒日本産と棲み分ける中・小粒の検討も必要だろう。 そして,同店でのとちおとめ販売では,世帯員の少ない家庭では鮮度が,年配者には安全性が,中・高所得層には安全性と有機栽培が求められた。日本産の主たる購買層である中・高所得層に安全・安心が求められた。とちおとめ輸出には不可欠な改善要望指標といえる。今後は香港人富裕層の要望に応えた輸出対応を目標に,他の国内外産の購買層と棲み分けができるような長期的な輸出計画が必要となるだろう。 第5章では,青森産リンゴのヘルシンキ輸出の可能性を購買選択行動から検討した。 まず,北欧の経済状況とリンゴの需給動向を総合的に考察した結果,人口は小規模ながら,国民所得や平均年収,購買力平価も高かった。そして,1人当たりのリンゴ供給量も極めて多いため,リンゴの輸出先国としては期待が持てる結果となった。続いて,ヘルシンキ市内の消費者の購買選択基準を考察した。その結果,回答者は糖度や鮮度,果汁,低価格性,有機栽培を評価した。特に回答者は日本産を高く評価した。青森産の小売価格を日本国内の価格水準に近づけることができれば輸出は期待できる。他方,大玉リンゴは参加者から評価されたが,一般参加者と学生参加者とではその選好に違いが見られた。一般的に価格提示後も同じ品種を選択する確率は高いのだが,高価なときから安価なふじへ品種選択する参加者も多く,輸田には高価格がネックになる可能性が高い。大玉リンゴの購買層は富 裕層であるが,富裕層に選択されるのはときのみであった。高級品種は富裕層に,大衆品種は一般消費者といったように品種に応じた販売チャネルの再考が必要だろう。 最後に,ヘルシンキへの輸田リンゴの大きさを再考した。コンジョイント分析の推計結果をみても,回答者は1果75mm以下のリンゴを望んでいる。今後は,大玉を好む北欧の富裕層,小玉を好む一般消費者といったように,大きさにも応じた輸出チャネルの再考も必要だろう。 隠す
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