研究概要 |
本研究は,恒常的な取水制限を強いられている愛知県矢作川流域での水需給調整に当たって,冬季代かき乾田直播栽培の導入が節水型水利システムの構築や新しい水管理技術の構築にどのように貢献するのかを明らかにすることを目的とする。一方,温暖化に伴う気温の上昇によって水田内の水温が上昇し,水稲の無効分げつが進み収量や品質の低下を招くことが懸念され,この対策として矢作川流域では深水灌漑と水管理労働の省力化を図るための無落水灌漑が普及している。このような深水無落水灌漑による水管理が用水量や水温,地温,水質などに及ぼす影響の検証が十分行われていないことから,愛知県三河地方の冬季代掻きV溝乾田直播栽培水田で行われている,深水無落水灌漑の実態と圃場内での湛水動態,水温,地温,水質環境を明らかにするものである。 平成22年度の研究では,研究初年度から最終年度までの3年間における農業用水の利用実態について水利管理データを入手して解明を行った。その結果,灌漑期間中の取水量のピークが7月初旬の中干し終了後に現れており,4月末から5月初旬の用水地域内での代かき・田植え時のピーク取水量が,中干し終了後のピーク取水量に対して20~30%減少していることが判明し,冬季代かきが節水型水利用に貢献していることが明らかになった。さらに,深水無落水灌漑が夏期の水需要増大時において有効雨量を増加させることにもつながり,水田内での保水能力が高いために,農家にとって用水不足への懸念が少ないことが分かった。
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