これまでの研究において、リンドウの成熱、老化状態と花冠の紫外線画像の輝度値の関係性を検討した結果、葯の成熟する時期、即ち開花期に紫外線輝度値が有意に高くなり、その後老化とともに暗くなることが分かっている。しかし、なぜ成熟・老化の進行とともに紫外線輝度値すなわち花冠の紫外線反射率が変動するのか、その機構は依然として解明できていない。このため、本現象が特定の園芸品種固有の人為的・偶発的現象なのか、あるいは他の品種でも普遍的な生態学的に意味ある現象なのかが不明なままである。そこで今年度は、花・ポリネーター間の関係性などの現象の生態学的な意味を検討する前に、その機構解明を優先して研究を遂行した。 ここで一般に、花は花冠の内側の細胞に多くの水が移動することで細胞が肥大し開花する。したがって、リンドウ花冠の紫外線輝度値の変動には開花期の水の移動による細胞の肥大が関係している可能性がある。そこで今度は、紫外線輝度値の変動と体内水分関係(含水率、含水比、乾物比、相対含水率、水欠差など)との関連性に関して詳細な検討を行った。その結果、紫外線輝度値の変動傾向は、含水率とほぼ同一であることが判明し、紫外線輝度値上昇には、花冠内細胞に相当量の水が流入する必要があることが伺われた。さらに、走査型(SEM)電子顕微鏡を用いて花冠表面(内面、外面)の微細構造を観察したところ、特に内面において、表皮を覆う襞間の間隔が、紫外線輝度値上昇の前後で、縮小・拡大・縮小と変動することを確認した。
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