これまでの研究において、リンドウの成熟・老化状態と花冠の紫外線画像の輝度値の関係性を検討した結果、葯の成熟する時期、即ち開花期に紫外線輝度値が有意に高くなり、その後老化とともに暗くなることが分かっている。しかし、なぜ成熟・老化の進行とともに紫外線輝度値すなわち花冠の紫外線反射率が変動するのか、その機構は依然として解明できていない。そこで本研究では同現象の発生機構の解明を目指した。まずこれまでに、同変動が花冠内の含水率とほぼ同期することを発見したが、今年度特筆すべき現象として、含水率の上下と同期して花冠のpHも変動することを発見した。すなわち、紫外線反射率が最も高くなる時期に含水率は最も高く、pHはアルカリ側に移行した。その他のステージではいずれも含水率は低下し、pHは酸性側に移行した。さらにこの際、同時に花冠の紫外域から可視光域までの分光反射特性を測定しその特徴を検討した結果、同現象を引き起こす実体が、花色素内の有機酸の一種である蛍光物質、"カフェ酸"や"フェルラ酸"であり、これまで観察した紫外線反射光の一部がこれらの蛍光である可能性を発見した。すなわち、開花に伴う花冠内の水移動が、花色素の存在する液胞内のH^+の濃度変化、すなわちpH変動を誘導し、最終的に、このpH変動が上記有機酸の紫外域における蛍光収率に影響する可能性が認められる。言い換えれば、この蛍光強度変動により、結果として(見かけの)紫外線反射率変動が引き起こされると考えられる。今後はHPLCなどの定量分析により上記物質の影響を実際に確認する必要がある。
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