輸送が家畜にとって重大やストレスとなることは以前から分かっているが、家畜は嘔吐ができないため、家畜が乗り物酔いをするか否かは明らかとなっていない。そこで本研究は、主にヤギを用いて、家畜において悪心(気分が悪くなること)を示す指標を確立すること、また、家畜が乗り物酔いをするか否かについて検討することを目的とした。 ヒトやイヌにおいて悪心や嘔吐を誘発する薬であるアポモルフィンやシスプラチンをヤギに投与し、輸送時・輸送後の状態と比較した。アポモルフィンの投与により、ヤギはあくびを高い頻度で行い、また、舌舐めずりをした。また、個体によっては同じ場所を繰り返し周回する行動がみられた。あくびは、イヌにおいて酔いの指標の一つとなっている。シスプラチンの投与から2時間後、ヤギは動かなくなり、下をむいたまま瞼を半分閉じる状態になった。また、通常は好む濃厚飼料を摂食せず、乾草などの粗飼料を好むようになった。一方、輸送中のヤギは泡をふき、舌舐めずりをしていた。また、輸送後は個体によっては下をむいたまま動かなくなり、また、濃厚飼料よりも粗飼料を好んだ。薬物投与と輸送に共通してみられた反応が幾つかあり、これらはヤギにとって悪心を示す指標となる可能性もあると考えられるが、個体差が大きいことが今後の課題となった。 ウマについても、輸送中の行動観察および唾液中のコルチゾル濃度の測定を行った。輸送によりウマの唾液中コルチゾル濃度は増加し、ストレスを受けていることが明らかとなったが、乗り物酔いをしている様子は観察できなかった。
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