家畜・家禽の脂肪細胞の容量を決定するVLDLの本体であるapolipoprotein Bは、通常、post-transcriptional regulation(apolipoprotein B蛋白質の細胞内分解)によって制御されていることが知られている。本研究では、apolipoprotein Bの肝臓における新たな脂質シグナル制御機構を、これまで我々が情報を蓄積してきたオクタン酸・デカン酸をモデルにして明らかにして、「脂質シグナル-転写因子のクロスドーク-機能性食肉の生産」という新たな畜産の技術基盤を構築することを目指す。本年度はデカン酸の肝細胞apolipoprotein B mRNA抑制作用の機構解析を、apolipoprotein Bプロモーター解析を用いて行った。 1.デカン酸による鶏初代肝細胞のapolipoproteinB mRNA抑制機構を明らかにすることを目的として、apolipoproteinBのプロモーター領域(約2000bp)を鶏ゲノムより抽出し、各種のデリーションミュータントを作成し、これをpGL4.10にコンストラクトした。次に、鶏肝細胞に、リポフェクション、あるいはエレクトロポレーションでコンストラクトをpRLとともに導入し、Dual-Luciferase Reporter Assayを行なった。その結果、転写開始点より-200bpに応答領域が同定され、3箇所のHNF4-α結合推定領域が認められた。 2.本実験系の細胞のmRNA発現を調べたところ、HNF4-αの遺伝子発現低下が認められたものの、SREBP-1の遺伝子発現には、デカン酸は影響しないことが明らかとなった。 3.EMSAとWestern blotによる解析から、デカン酸によるapolipoproteinB mRNA抑制機構にはHNF4-αの核内蛋白量が関与していることが明らかとなった。 以上より、本脂質シグナルはHNF-4αを転写レベルで低下させる機構により、VLDL分泌を低下させることが明らかとなり、次年度は、HNF4-αのプロモーター解析を行うことにより、本脂質シグナルの転写調節機構の全様を解明できるものと推定された。
|