凍結乾燥ウシ精子がもつ受精シグナルの正常性についてほとんど調べられていない。本研究では0.37hPaで14時間と0.001hPaで3時間の凍結乾燥処理後に1年間、+25、+4または-196℃で保存したウシ精子が卵子活性化誘起活性を保持しているかどうかをを確かめようとした。その目的のため、排卵マウス卵子への異種顕微授精を行ってカルシウムオシレーションの発現パターンを共焦点レーザー顕微鏡下で調べるとともに、体外成熟ウシ卵子への同種顕微授精を行って核相の変化を追跡した。反復性の細胞内カルシウムイオン濃度の増加は凍結乾燥後の保存温度に関わらず54〜58%の割合でマウス卵子に起こったが、凍結乾燥していない精子を注入したときの79%よりは低かった。同種顕微授精における減数分裂再開ウシ卵子の割合(48〜57%vs70%)や前核形成卵子の割合(27〜34%vs64%)にも同様の傾向、すなわち致命的ではないものの凍結乾燥区では対照区よりも受精初期のシグナル伝搬が遅れるあるいは劣る傾向があった。このようにウシ精子の保管温度に関わらず、凍結乾燥行程はウシ精子のSOAF活性に少なからず影響を及ぼすことが明らかになった。
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