凍結乾燥ウシ精子の顕微授精(Intracytoplasmic Sperm Injection)によって作製された前核期卵におけるエピジェネティクス、とくに雄ゲノムの能動的脱メチル化動態については、マウスとラットのような実験小動物での報告はいくつか出されているものの、大型産業家畜のウシについてはほとんど知られていない。本研究では0.37hPaで14時間と0.001hPaで3時間の凍結乾燥処理後に1年間、+4℃または-196℃で保存したウシ精子で顕微授精させた前核期卵の雄ゲノムにおける脱メチル化レベルを調べ、体外受精卵のそれと比較した。その結果、雄ゲノムの能動的脱メチル化現象は体外受精からは10時間以内、顕微授精(新鮮対照精子使用)からは6時間以内に開始しており、雌ゲノムのメチル化レベルを1とした雄ゲノムの相対的メチル化レベルは0.4から0.6程度の値を示した。少なくとも凍結乾燥行程が精子に加わることによって雄ゲノムに能動的脱メチル化が誘起される時期や脱メチル化のレベルに特筆すべき問題が生じることはなかった。次に凍結乾燥ウシ精子に由来する胚盤胞作製に本格的に取り組むに当たり、卵子活性化誘起の方法を見直した(ウシICSI技術の高度化)。ICSI直後に5μMの濃度のイオノマイシンで5分間処理し、4時間後に7%の濃度のエタノールで5分間処理することにより、約30%の胚盤胞発生率が得られるようになった。
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