本研究の目的は、ウシ精子の凍結乾燥(FD)条件を最適化し、長期間冷蔵保存した後にでも正常な受精シグナルを発する能力をもつことを顕微授精(ICSI)系によって証明することである。本年度は、凍結乾燥ウシ精子と体外成熟ウシ卵子を用いた同種顕微授精システムを利用し、体外培養による胚盤胞の作製を調べたうえで、精子中心体機能の正常性を星状体形成に基づいて検討した。FD-ICSIにおける胚盤胞作製効率(1%)はICSI区の値(21%)や対照のIVF区の植(43%)より有意に低かった。アルカリコメットアッセイにおいては、FD行程によってウシ精子のDNA断片は誘発されていなかったし、FD-ICSIから7時間目の精子星状体出現率もICSI区と同等だった(FD-ICSI区の41%に対しICSI区は49%)。精子星状体を形成した卵子に限定した場合、微小管繊維ネットワークの大きさにも両区の間で差は認められなかった。しかしながら、ICSI由来胚における微小管形成中心(MTOC)機能は対照のIVF由来胚におけるそれと同等というわけではなかった(IVF区の精子星状体出現率は97%で、微小管繊維ネットワークの大きさはICSI区の約2倍)。これらの結果より、FD行程自体はウシ精子のMTOC機能の維持にとって悪影響を及ぼさないことが示唆された。 なお平成23(2011)年度、Nova Science Publishers出版の「In Vitro Fcrtilization」という本にウシの顕微授精に関する章を執筆し、J Reprod Dev誌には凍結乾燥ウシ精子の研究現状を紹介する総説記事を著した。
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