当該年度では、各々の動物園での研究実施体制の相違から、アジアゾウおよびサイ(インドサイ、クロサイ、シロサイ)で内分泌モニタリングを開始し、他の種では主に配偶子の回収を試みた。 これらの動物種から得られた糞や尿に含まれる性ステロイドホルモン代謝物の含量を測定し、さらに性行動を中心とした諸行動の記録と併せて繁殖生理状況(発情周期や妊娠など)を解明した。アジアゾウでは、(1)糞・尿中のプロジェステロン(P_4)含量の動態から発情周期や妊娠期の判定が可能であること、(2)尿中のエストラジオール・グルクロニドの動態から発情期が明確に把握できること、(3)尿中コルチゾールの動態から出産日の特定が4日前から可能であること、(4)雄の糞・尿中のテストステロンやアンドロステンジオン(Ad)の動態から性行動との関係やマスト期の把握ができることを解明した。インドサイとクロサイの発情周期は、各々糞中Adの動態から50.6±2.7日間、血中P_4濃度の動態から24.4±1.3日間と判明した。インドサイでは陰部からの粘液漏出、笛鳴き、マウント、交尾などの行動観察の時期と糞中ホルモン動態とは一致したが、クロサイでは、発情周期中の血中と糞・尿中の動態は一致しなかった。また、本年度調査した雌シロサイでは、糞中P_4含量が1例の除き発情周期を示さなかったが、妊娠期のクロサイでは、糞中P_4などのホルモン動態が特徴的な変動傾向を示しモニタリングに成功した。 一方、電気射精法による精液採取をアムールトラで、また死体からの精子の回収をアジアゾウ、ウンピョウ、インドサイおよびボルネオオランウータンの各1個体で実施した。雌の死体からの卵母細胞の回収を、1頭のアジアゾウで実施したが回収できなかった。陰茎マッサージ法で採取した精液を、液状輸送して他園の発情期の雌に無麻酔下で経腟人工授精する試みを、ボルネオオランウータンで3回実施したが妊娠しなかった。
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