研究概要 |
当該年度では、各々の動物園での研究実施体制の相違から、アジアゾウ、ネコ科動物(アムールトラ、ツシマヤマネコ、ユキヒョウなど)における内分泌モニタリング、並びにボルネオオランウータンおよびボウシテナガザルの造精機能、精子特性および内分泌動態の解明とこれらに基づいた自然繁殖や人工授精を主に試みた。 これらの動物種の糞や尿に含まれる性ステロイドホルモン代謝物含量の動態を解明し、特にアジアゾウでは血液中の黄体形成ホルモン(LH)濃度の測定とその簡易測定法の開発並びに高速液体クロマトグラフィーによる代謝物の同定を行い、各々の種の繁殖生理を明らかにした。先ずアジアゾウで明確にできたことは、(1)血液と尿中の主要な代謝物はテストステロンとアンドロステンジオンであり、糞中では,androsterone, epi-androsterone, 5α-dihydrotestosteroneが比較的多いことなどが確認できたこと、(2)イヌLH抗体を用いた測定法により血中濃度の定量に成功したこと、(3)無排卵LHサージと排卵LHサージの間が21日間であること、(4)両LHサージの直前に尿中エストラジオール・グルクロニド濃度の明確な上昇が確認できたこと、などである。またアムールトラでは、(1)糞中プロジェステロン含量の動態から約110日間の妊娠期間であること、(2)不妊の場合には交尾後約40日間の黄体期があること、(3)これらの結果から交尾排卵動物であるが、中には自然排卵が起こっている可能性も確認できたこと、などが解明でき、さらに他のネコ科動物でも同様な研究を行い、種々の繁殖内分泌学的な知見を解明し妊娠診断を実施することができた。ボルネオオランウータンでは3例の妊娠例(うち2例で出産、1例は死産)に成功し、またテナガザルでは雌雄生殖器官の解剖学的特徴ならびに配偶子(精子や卵母細胞)の細胞学的特性を解明した。
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