本年度は、内分泌撹乱化学物質がウズラ肝臓の卵黄関連遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを調べた。実験に用いた物質は、合成エストロゲンであるジェチルスチルベストロール(DES)、および最近内分泌撹乱効果が指摘されているCdとSeで、雄ウズラ肝臓における超低密度アポリポタンパクII(apoVLDL)mRNAの転写に及ぼす影響を調べるために、腹腔内に投与した。RNAを肝臓から抽出し、逆転写反応をおこない、得られたcDNAは、apoVLDL遺伝子に対する特異的プローブを用いたPCR法で解析した。その結果、雌特異的遺伝子の発現は成熟雌にのみ認められ、無処理の雄には発現が認められなかったが、未成熟雄にDESを投与することで誘導できることがわかった。また、遺伝子の発現量は投与後1日でもっとも高く、投与後2日には減少することがわかった。様々な量のDESを投与したところ、apoVLDL遺伝子の発現量は用量依存的に増加した。効果の認められた最小量は、体重100gあたり100および10μgであった。内分泌撹乱化学物質が母親から移行して雄胚肝臓の遺伝子発現に及ぼす影響を調べるために、母親にDESを10日間、腹腔内に連続投与した。最初の投与後の6日目から受精卵を回収し、孵卵各日令の雄胚から肝臓を採取した。母親へDESを投与したところ、遺伝子発現に有意な影響を与えなかった。胚の肝臓の遺伝子発現をDESが誘導できない原因が、肝臓のDESに対する反応性によるものなのか、卵黄へのDESの蓄積量に関係するものなのかを調べるために、未処理の母親が産卵した受精卵の卵黄内にDESを直接投与した。その結果、apoVLDL遺伝子の発現量は、DES投与で増加することがわかった。効果の認められた最小量は、いずれの場合でも1μg/卵であった。同様な効果はCdでも認められた。
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