研究概要 |
カルシウムシグナリングの遮断による精子の自発的先体反応抑制法の開発 ・CaCl_2無添加培養液に黒毛和種凍結精子を再浮遊された場合,一部の低繁殖症雄個体での精子頭部内Ca^<2+>濃度は正常繁殖能力区よりも高かった。この結果から,少なくとも一部の低繁殖症黒毛和種雄個体では融解直後の精子において細胞内ストアからのCa^<2+>の放出が起こっていると考えられる。 ・黒毛和種凍結精子を再浮遊させる培養液からCaCl_2を除去したり,培養液にCa^<2+>キレート剤EDTAを添加したりすると、低繁殖症雄個体での凍結精子の自発的先体反応が効果的に抑制された。 ・ブタ射出精子を卵黄無添加の希釈液中で2日間冷却処理すると,精子頭部で先体反応様の形態変化が見られるが、精子浮遊液へのカルパイン阻害剤VIの添加によりこの形態変化は抑制される傾向にあった。 ・以上の結果は,家畜の雄性低繁殖症に関係する精子の自発的先体反応を抑制するための最も有効な分子標的がCa^<2+>シグナリング構成分子であることを示唆している。 低繁殖症固体由来の精子での先体チロシンリン酸化タンパク質の減省メカニズムの解明 ・低繁殖症個体由来の精子の先体で減少するチロシンリン酸化タンパク質はSperm Acrosome Associated 1(SPACA1)であった。SPACA1遺伝子について,精巣でのmRNA発現量は個体の繁殖能力に関わりなくほぼ一定で,mRNAの塩基配列にも低繁殖症と関連する異常は認められなかった。また精子のSPACA1タンパク質の含量にも個体差はほとんど見られなかったが,精子先体前部に分布するチロシンリン酸化型SPACA1タンパク質は低繁殖症の個体で少なかった。さらにSPACA1タンパク質でのチロシンリン酸化型の割合は低いが,このSPACA1タンパク質でのチロシンリン酸化を正しく行えないことが低繁殖症の一因であると推定された。
|