研究概要 |
精子凍結時に発生するフリーラジカルは様々な細胞障害を引き起こし,融解後の精子性状を低下させる。また,精子を酸化ストレスから保護するためには,取り扱いが容易で安定した抗酸化能を有し,しかも,毒性を有さない抗酸化剤を用いる必要がある。そこで本研究では,アグー精子凍結時における凍結用希釈液(BF-5)への安定型アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸2-O-α-グルコシド;AA-2G)添加が融解後の精子性状に及ぼす影響について検討した。 実験1では,アグー3頭の射出精子を0-800μMのAA-2Gを添加したBF-5で冷却・凍結し,融解後の精子運動性を観察したところ,200μM AA-2G処理区では融解後の精子運動性が他の区に比べて有意に向上した。このことから,BF-5へ添加するAA-2Gの至適添加濃度は200μM AA-2Gであることが明らかとなった。次に,実験2では,アグー4頭の射出精子を0もしくは200μMのAA-2Gを含むBF-5で凍結し,融解後の細胞内アスコルビン酸(AsA)量とATP量,脂質過酸化,ならびに細胞膜とDNAの障害性を調べ,さらに体外受精で精子受精能力を評価した。その結果,精子細胞内AsA量はAA-2G処理で変化しなかったが,脂質過酸化は抑制され,凍結処理に伴う細胞膜とDNAの障害は共に有意に減少した。また,AA-2G処理区の精子では,細胞内ATP量と体外受精率が無処理区に比べて有意に増加した。さらに,200μM AA-2G処理区の凍結精子を人工授精に使用した際,新鮮精子と同レベルの出産率(38%)と平均一腹正常産子数(3.7頭)を得ることに成功した。 以上の結果から,細胞外のラジカルを消去するAA-2Gの作用により,アグー精子の凍結障害は抑制され,融解後の精子性状が効果的に改善されることが明らかとなった。
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