研究概要 |
細胞膜流動性の劣るブタ精子は凍結融解処理過程で障害を受けやすく,その現象は一般豚精子に比べてアグー精子においてより顕著である。通常の凍結用希釈液には20%の鶏卵黄が含まれており,その有効作用因子は低密度リポタンパク質(low density lipoprotein ; LDL)であるとされている。そこで本研究では,夏季に精子性状が著しく悪化する雄アグーを通年的に繁殖に利用する上において不可欠な凍結精子の作成技術を確立するため,アグー精子の凍結時における凍結用希釈液に含まれる鶏卵黄のLDLへの置換が融解後の精子性状に及ぼす影響について検討した。 その結果,通常の20%鶏卵黄を含む通常の凍結用希釈液(対照区)に比べ,鶏卵黄の換わりにLDLを添加した修正凍結用希釈液を使用(処理区)した場合,個体間で量に差はあるものの凍結融解後の精子におけるコレステロール含有量は有意に増加した(P<0.05)。そして,LDLを含む凍結用希釈液で処理した処理区精子の細胞膜正常性は,対照区に比較して有意に高いレベルで維持された(P<0.05)。また,融解後1時間の運動精子率においても,処理区では対照区に比べて10~20%の高い値を示し,LDL処理区の精子においてはDNA,ミトコンドリアさらには先体への障害も軽減された。これらパラメータを指標としたLDL至適濃度は個体間で差があるものの4または6%であった。さらに,アグー精子の融解後の細胞内ATP量は,対照区に比べて4-6%のLDL処理区で著しく多く(P<0.05),高い生存性の維持が確認された。 以上の本研究結果から,雄アグーの精子を凍結する際には,凍結時のコールドショックに伴う細胞障害を効果的に抑制する作用を有するLDL処理が,良好な凍結精子を作成する上で非常に有用であると結論された。
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