研究概要 |
アグー精子の耐凍能は低く,凍結・融解後には細胞膜やミトコンドリアの障害が高頻度に起こる。そこで,本研究では,アグー精子の凍結処理時におけるアポトーシス様細胞死を検証し,カスパーゼ活性化機序に関連したアポトーシス様細胞死を抑制することで良好なアグー凍結精子の作製技術の確立を目的とした。 その結果,アグー精子凍結処理後には活性型カスパーゼ-3および-9を有する精子が確認され,アグー精子の凍結・融解過程でミトコンドリア依存型カスパーゼ機序が活性化されていることが明らかとなった。そして,ミトコンドリア依存型アポトーシス様細胞死を抑制する新規細胞死抑制タンパク質(300nM PTD-FNK protein)で凍結前の精子を処理した場合,融解後のミトコンドリア正常性が向上しカスパーゼ-3と-9の活性は低下した。しかし,PTD-FNK protein処理による融解後のカスパーゼ-8活性の抑制や精子細胞膜正常性への効果は認められなかった。そこで,細胞膜正常性等の改善作用が期待される500μg/mlヒアルロン酸をPTD-FNK proteinを含む凍結用希釈液に添加したところ,ヒアルロン酸は融解後の細胞膜障害を抑制したが,カスパーゼ-8活性に対する影響は見られなかった。一方,PTD-FNK protein+ヒアルロン酸の処理は凍結・融解後の各種精子性状を改善し,凍結精子における受精能力の維持に対して顕著に有効であった。 以上の結果から,精子凍結用希釈液へのPTD-FNK proteinとヒアルロン酸の添加は,凍結障害で引き起こされるミトコンドリア依存型アポトーシス様細胞死と細胞膜障害の抑制,さらには融解後の精子受精能力の維持に非常に効果的であり,良好なアグー凍結精子を作製する点において有用な方法であると結論された。
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