本研究では、脊髄組織における虚血病態のメカニズムとプリン化合物の関与について検討するため、新生ラット摘出脊髄標本を用いて低酸素によるプリン化合物濃度変化について検討した。HPLC法及びバイオセンサー法を用いて、低酸素曝露による脊髄の細胞外アデノシン濃度変化を測定し、以下の結果を得た。 1.摘出脊髄標本を、低酸素に短時間(10-30分間)曝露すると、細胞外アデノシン及びイノシン量が有意に増加したが、AMP、ADP、ATP及びcAMP量は変化しなかった。細胞外イノシン量はアデノシン量と比較して約10倍高かった。2.低酸素曝露によるアデノシン/イノシン量の増加は、温度依存性を示し、細胞外Caによって抑制された。3.細胞外イノシン量の増加は、アデノシンデアミナーゼ阻害薬及び平衡ヌクレオシドトランスポーター阻害薬によって消失したが、細胞外アデノシン量の増加は影響を受けなかった。また、細胞外アデノシン量の増加は、エクト5'ヌクレオチダーゼの影響も受けなかった。6.低酸素による細胞外アデノシン/イノシン量の増加は、グリア代謝阻害薬によって消失した。一方、高炭酸やアデノシンキナーゼ阻害薬によるアデノシン放出は、グリア代謝阻害薬の影響を受けなかった。 以上の結果より、低酸素は脊髄からアデノシン及びイノシンを増加させることが明らかとなった。アデノシン量の増加は、細胞外のおけるATPやcAMPの分解によるものではなく、細胞内からアデノシンが直接放出されると考えられる。またイノシンは、細胞内でアデノシンからアデノシンデアミナーゼによって産生され、平衡ヌクレオシドトランスポーターを介して放出されると考えられる。低酸素によるアデノシン産生・放出過程は、Caによって負の調節を受けること、またグリア細胞が、低酸素惹起プリン化合物放出において重要な役割を果たしていることが示唆された。
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