本研究では、脊髄の神経活動に虚血条件が与える影響と、そこにおけるプリン化合物の役割について検討するため、新生ラットから摘出した脊髄を用いて神経活動の評価の為に反射電位を測定するとともに、HPLC及びバイオセンサーを用いて細胞外プリン化合物濃度の変化を記録し以下の結果を得た。 1.5日齢以上の新生ラット摘出脊髄では、3つの異なる神経経路を介する反射電位がすべて低酸素によって抑制された。一方、3日齢以内では、多シナプス反射電位である遅発性前根電位(sVRP)は抑制されたが、単シナプス反射電位(MSR)はほとんど低酸素の影響を受けなかった。 2.低酸素によるMSR抑制は、アデノシンA1受容体拮抗薬CPTで消失したが、sVRPの抑制はCPT耐性であった。 3.外因性アデノシンによる抑制効果は、日齢や神経経路に関わらずに生じた。 4.低酸素によるプリシ化合物放出は、3日齢ではほとんど生じなかったが、5日齢以上では有意な放出量の増加が認められた。 5.低酸素によって放出されるプリン化合物として、アデノシンと共にイノシンも放出された。 以上の結果から、低酸素による神経活動への影響は、脊髄の神経経路によって異なることが示された。MSRの抑制はアデノシン放出によるA1受容体活性化に大きく依存する一方、sVRPの抑制はアデノシン非依存性であった。低酸素によるアデノシン放出が動物の日齢や温度などに大きく影響を受けることが、低酸素による各神経経路が受ける影響の差の大きな要因となっていることが示唆される。
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