豚赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(PHEV)は、コロナウイルス科グループ2に属し、エンベロープを有する+鎖ssRNAウイルスである。最近、 PHEVは自然宿主である豚でもほとんど不顕性感染となる極めて病原性の低いウイルスであるが、実験動物であるマウス、ラットの神経細胞に感染し、シナプスを介して神経回路を伝達して感染が進むことが明らかとなり、病原性の低いウイルス性ニューロトレーサーとしての有用性が示唆されている。一方、病原性が低いことからこれまで感染症としては重要視されておらず、PHEVのゲノム構造と病原性との関係についてはほとんど解明が進んでいない。PHEVをニューロトレーサーとして改良するためにゲノム情報と構造を解析し、また主要な遺伝子の病原性との関係について検討した。 神経細胞親和性を指標として選抜することにより得られた高神経細胞親和性67N平野亜株の全塩基配列を決定、3C-like protease(3CL^<PRO>)領域およびHelicase領域の塩基配列を基に系統樹を作成し、各種コロナウイルスとの比較・解析を行った。 その結果、グループ2コロナウイルス間で3CL^<PRO>領域およびHericase領域の塩基配列は高い相同性を示し、よく保存されている領域であることが明らかになった。特に、PHEV、 HCoV-OC43、 BCoV間の相同性は非常に高く、これらのウイルスの進化上の密接な関係にあることがを示唆された。 また、神経病原性が弱いとされるOSN20株C末側8kbの塩基配列を決定し、嘔吐・衰弱型株VW572株、神経病原性株67N株と比較した。その結果、 VW572株と比べ、 NS2遺伝子領域に67N株では約200塩基対の挿入が、OSN20株で約400塩基対の欠失が認められた。これらの領域が神経病原性に関わる可能性もあると考えられた。
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