豚赤血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(PHEV)は、コロナウイルス科グループ2に属し、エンベロープを有する+鎖ssRNAウイルスである。PHEVは自然宿主である豚でもほとんど不顕性感染となる極めて病原性の低いウイルスであるが、実験動物であるマウス、ラットの神経細胞に感染し、シナプスを介して神経回路を伝達して感染が進むことが明らかとなり、病原性の低いウイルス性ニューロトレーサーとしての有用性が示唆されている。 神経細胞親和性を指標として選抜することにより得られた高神経細胞親和性67N平野亜株および神経病原性が弱いとされるOSN204株のラットおよびヒトグリア系株化細胞および神経系株化細胞での感染・増殖性について検討を継続した。67N株、OSN204株とも、グリア細胞株へのPHEV感染は認められなかった。また、神経細胞株においても神経細胞への分化処理を行わない場合にはPHEVの感染は確認されなかったが、NGF処理によって神経細胞への分化を誘導したラットP12細胞にPHEVを接種したところ、間接蛍光抗体法によってPHEV抗原の発現が確認され、PHEVの感染が示唆された。 PHEVのウイルスレセプター結合領域(RBS)を決定するため、Sタンパク遺伝子のtruncate expression vectorsを作製し、RBS解析を行った(解析を継続中)。また、これまでのPHEVのゲノム解析の結果から、病原性への関連が示唆されたns2遺伝子の機能解析を試みるため同遺伝子のクローニングを試みた。同遺伝子の原核細胞発現系での組換えタンパク質の発現・モノクローナル抗体作製を検討中である。
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