旋毛虫は、宿主筋肉細胞に感染した後、筋肉細胞をnurse細胞に変異させて寄生を続ける。我々はその筋肉細胞変異に重要と思われるRcdlと呼ばれる旋毛虫の分泌蛋白をクローニングした。本研究では、Rcdlを含む分泌蛋白が、旋毛虫感染による筋肉細胞を脱分化・再分化する現象にどのように関与しているかを分子生物学的に解明する。 1. Rcdlの生理学的活性 哺乳類由来のRcdlは転写因子であるc-Mybと相互作用して、c-Myb特異的プロモーターであるmim-lの活性化を抑制する。しかし、旋毛虫Rcdlと哺乳類由来のRcdlのアミノ酸配列のホモロジーは約60%で決して高いとはいえず、その生理学的活性が異なる可能性がある。今年度は、c-Mybと旋毛虫Rcdlとの相互作用をルシフェラーゼアッセイにより検討した。すなわちRcdlとc-Myb遺伝子を同時にHEK293細胞に導入して、c-Mybのmim-lプロモーターを介する転写活性を測定した。その結果Rcdl遺伝子の導入量が増えるのに従い、mim-lの転写活性の抑制は段階的に増加した。 2. 新規蛋白のクローニング 旋毛虫のcDNAライブラリーより新規の蛋白をクローニングした。この蛋白はホモロジー検索からTransgelinに近い分子と考えられたが、旋毛虫の新生幼虫で最も高く発現しており、筋肉細胞変異の初期段階においてに何らかの役割を担っている可能性が示唆された。 3. 旋毛虫感染による血糖値低下の分子メカニズムについての検討 感染マウスではインスリン感受性が高くなったこと、insulin-signaling passwayに関連する遺伝子群がup-regulateされていること等から、感染細胞のインスリン感受性が増加することにより筋肉細胞へのグルコースの取り込み量が増えた結果、血糖値が低下したものと考えられた。
|