1.蛋白の昆虫細胞での発現、精製 旋毛虫が分泌するRcd1、43kDa蛋白および53kDa蛋白の昆虫細胞での発現・精製を行った。しかし、43kDa蛋白の発現のみ確認できなかった。発現させた蛋白は22年度の生理活性の解析実験に使用する予定である。 2.RNAiによる解析 Rcd1、43kDa蛋白および53kDa蛋白遺伝子に対応するdsRNAを作製して種々の方法により旋毛虫の新生幼虫、筋肉幼虫、成虫に導入を試みたが、それぞれの遺伝子のノックダウンは確認されなかった。 3.細胞を用いた旋毛虫分泌蛋白の生理活性の解析 前年度にRcd1とc-myb遺伝子を同時にHEK293細胞に導入し、c-mybのmim-1プロモーターを介する転写活性を検討し、Rcd1遺伝子の導入量が増えるのに従い、mim-1の転写活性は段階的に抑制されることを報告した。今年度においてc-myb量等の条件を変えて検討したところ、ある条件下ではmim-1の転写活性を増強する可能性が示唆された。 転写因子であるAP-1、E2FおよびNF-κBは、炎症性刺激や発ガン、分化、アポトーシスなどにおいて重要な役割を果たしていることが知られている。旋毛虫Rcd1のAP-1、E2FおよびNF-κBの各特有な応答配列に対する転写活性に与える影響をルシフェラーゼアッセイによって解析した。その結果、Rcd1はAP-1、E2Fに対してはup-regulateに、NFκBに対してはdown-regulateに影響を及ぼしていることが明らかになった。 4.旋毛虫感染におけるIGF因子群の発現動態 IGFシグナル経路は、細胞の分化、細胞周期、アポトーシスなどを制御することによって、筋肉の発生、成長、再生に幅広くかかわる事が知られている。一方、旋毛虫のうち、T.spiralisとT.pseudospiralisでは、感染による筋肉の病理変化は大きく異なる。この二種類の旋毛虫の感染過程におけるIGF因子群の発現動態が筋肉の病理変化とどのように相関するかについて検討した。T.spiralis感染においでは、IGFおよびIGFBP2遺伝子の発現は感染後すぐに増加し始めるが、T.pseudospiralisでは、その発現は感染後期にピークを示す。これらの結果から、IGF因子は筋肉の病理変化、また感染細胞のナース細胞への変異に関与する重要な遺伝子群であることが示唆された。 5.種特異的組換え53kDa蛋白を用いたヒト旋毛虫症の血清学的診断法の検討 53kDa蛋白はTrichinella属に特有な蛋白である。今回、組換え53kDa抗原によるELISAをヒト旋毛虫症に適用し、ヒトでの感染における血清診断の応用の可能性について検討を行った。その結果、組換え53kDa抗原を用いれば、感染の早期の診断および感染種の推定が可能であると思われた。
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