哺乳類の脳において、系統発生学的に古い皮質に属する嗅球と海馬では、発生期のみならず成体においても神経発生が恒常的に生じている。一方、成体脳における神経発生のメカニズム、ならびに脊椎動物の進化に伴う成体脳における神経発生の変遷については不明である。本年度は、爬虫類のニホンカナヘビ(Takydromus tachydromoides)および有尾両生類アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)の嗅覚系を中心とした神経発生についての検索をおこなった。まず、両者において嗅覚系の組織構造が不明であったため、電子顕微鏡ならびにレクチン組織化学的染色により、その微細構造ならびに組織化学的特性を検索し、他の脊椎動物と比較検討をした。結果、ニホンカナヘビの特に鋤鼻器は他の脊椎動物種に比べ非常に発達しており、感覚上皮は非常に厚く、感覚細胞及び支持細胞管腔側表面は微絨毛に覆われ、多数の未熟な感覚細胞が存在し、支持細胞では繊毛がないにもかかわらず中心小体の遺残とも取れる構造物が存在することが明らかとなった。また鋤鼻器呼吸上皮では、これまでに報告されていない新たな型の細胞を発見した。アカハライモリにおいては、主嗅球と副嗅球では、糖鎖発現の観点からは大きな相違が認められないことが、22種類のレクチンを用いたレクチン組織化学的染色により示唆された。両生類や爬虫類の中枢神経系は未だ不明な点が多く、成体脳における神経発生を検討する上でその正常構造をまず明らかにしていかなければならないが、本研究結果は今後の研究のための必要不可欠な土台となる。以上の結果の一部は、Tissue.CellおよびJ.Vet.Med.Sciに掲載され、また他の国際誌にも投稿中である。
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