味覚の感受は元来、舌や口腔の味蕾の味細胞の膜蛋白質である、味覚受容蛋白質で受容されるものと考えられており、この受容蛋白質には、甘味や旨味を感受するT1Rファミリーと、苦味を感受するT2Rファミリー、さらに酸味、塩味などのリセプターが存在することがわかっている。 本研究は味覚受容体のうち、とりわけ甘味、旨味を受容に関わるT1Rファミリーに注目し、これが味蕾のみならず、消化器系を含む多くの臓器で発現することを証明し、5件の学会発表した(論文投稿準備中)。 TlRファミリーの味覚受容蛋白質は、当初舌の味細胞で発見されたが、味蕾以外の臓器、たとえば膵臓の膵島や視床下部などの脳組織の神経細胞、さらには腎臓の近位尿細管、卵巣の卵胞顆粒細胞などにも発現しており、その広い分布から、味覚の受容のみならず、血中の糖などの感知にもかかわっている可能性が示唆された。 さらに、これらの臓器で発現しているT1Rファミリー分子のシークエンスを解析した結果、解析した範囲内では、味蕾のT1R分子のシークエンスと完全に一致することを明らかにした。 膵臓では、T1Rファミリーの分子は膵島に発現していること、さらに正常体重マウスと遺伝的肥満マウスを比較した結果、その分布が正常体重マウスでは主に膵島辺縁部に、遺伝的肥満マウスでは膵島中央部にも散在して分布していることを発見した。 以上、味覚受容体蛋白質は、味蕾以外の臓器にも広く発現しており、その分布域は消化器系に留まらないこと、また味覚受容体のmRNAは、これまで調べた限り、味蕾のものと、他臓器のものと、同一であることを明らかにした。
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