[目的]鋤鼻器で受容された化学分子の神経情報処理が最初に行われる副嗅球・糸球体層における神経回路を明らかにすることを目的に、マウスをモデルに、(1)糸球体層を構成する細胞群(糸球体周辺細胞:JG細胞)の特性、(2)JG細胞の種類とシナプス結合、(3)JG細胞の脳室周囲層からの移動と分化過程を解析している。昨年度は(1)(3)を遂行し結果を得た。 [研究結果]JG細胞の生化学的特性:免疫組織化学染色によりJG細胞の生化学的特性を解析し、約60%のJG細胞がGABA細胞であること、カルシウム結合蛋白陽性細胞、TH陽性細胞、GFAP陽性細胞などが存在することを示した。これらの特徴は主嗅球と類似しているが、副嗅球の特性としてTH細胞の割合が極めて少ないことが明らかとなった。JG細胞の形態学的特性:副嗅球のスライス標本(購入備品マイクロスライサーで作成)を用いて、単一JG細胞の形態を神経トレーサーで解析し、副嗅球のJG細胞が形態的に多様性を持つことを示した。JG細胞の脳室周囲層(SVZ)からの移動と分化過程:新生仔の脳室内に蛍光色素と結合させたプラスミドを注入し、電気泳動的にSVZ細胞群に取り込ませ副嗅球への移動を解析した。結果、SVZからrostral migratory streamを経由して副嗅球の顆粒細胞層と糸球体層に移動する細胞の存在が明らかとなった。 [考察=結果の意義・重要性]副嗅球と主嗅球の糸球体層は類似した細胞群で構成されていること、副嗅球の糸球体層と顆粒細胞層を構成するニューロンはSVZから移動する可能性が明らかとなり、さらに主嗅球と副嗅球では糸球体層ニューロンの生化学的特性の割合、移動ニューロンの割合に違いが存在することが判明した。このことは、鋤鼻受容体が受容する化学物質の脳内処理過程は、嗅細胞の情報とは異なった処理を受けていることを示す重要な発見である。
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