[目的]鋤鼻器で受容された化学分子の神経情報処理が最初に行われる副嗅球・糸球体層における神経回路を明らかにすることを目的に、マウスをモデルに、(1)糸球体層を構成する細胞群(糸球体周辺細胞:JG細胞)の特性、(2)JG細胞の種類とシナプス結合、(3)JG細胞の脳室周囲層からの移動と分化過程を解析している。[研究結果]21年度は主に(1)と(3)を遂行した。昨年度、副嗅球のJG細胞の生化学的特性として、ドパミン合成細胞のマーカーであるチロシン水酸化酵素(TH)陽性細胞の割合が極めて少ないことを明らかにし、本年度はこの現象が嗅ニューロンに比べて鋤鼻ニューロンの使用頻度が低いことと関係しているか否かを検討した。結果、鋤鼻器の使用頻度はTH陽性細胞数の発現変化には影響しないことが示唆された。この点については本年度も継続して検討する。発育期における脳室周囲層(SVZ)から副嗅球への細胞移動と分化過程を明らかにする目的で、新生仔の脳室内に蛍光色素と結合させたプラスミドを注入し、電気泳動的にSVZ細胞群に取り込ませ副嗅球への移動を解析した。結果、新生仔におけるSVZからrostral migratory streamを経由した副嗅球への移動細胞は存在するが、そのニューロンは極めて少ないことが明らかとなった。[考察=結果の意義・重要性]副嗅球と主嗅球の糸球体層は類似した細胞群で構成されているが、両者の糸球体層ニューロンの生化学的特性、生後移動ニューロンの割合には大きな違いが存在することが示された。このことは、嗅受容体経由の化学信号と鋤鼻受容体経由の化学信号の嗅球内における脳内処理過程は異なった処理を受けていることを示している。このことは、哺乳類における鋤鼻系神経回路の維持・系統発生を考察する上での重要な発見となった。
|