[目的]鋤鼻器で受容される化学分子の情報処理を最初に行う脳領域である副嗅球・糸球体層での情報処理機構も基礎を理解することを目的に、マウスの副嗅球における(1)糸球体層を構成する細胞群(糸球体周辺細胞:JG細胞)の特性、(2)JG細胞の種類、(3)JG細胞の脳室周囲層(SVZ)からの移動と分化過程、を解析した。[研究結果]22年度は(1)と(3)をさらに進めた。嗅球のスライス標本を作製し、単一のJ(細胞に神経トレーサー(ビオサイチン)を細胞内注入して蛍光マーカー付きアビジンで単一JG細胞を司視化させてその樹状突起の全体の形態を解析した。その結果、多くのJG細胞の樹状突起は複数の糸球体に投射していることが判明した。また、新生仔マウスの脳室内にGFP-ウイルスベクターを注入してSVZの新生ニューロンをマークすることでSVZから副嗅球へ移動する細胞を確認するとともに、新生ニューロンのマーカーであるダブルコルチンの免疫組織化学染色による解析を行った。その結果、マウス副嗅球の前半部と後半部に移動する新生ニューロンの割合には明瞭な差は無いことが明らかとなった。[考察:結果の意義・重要性]副嗅球と主嗅球の糸球体層は類似した細胞群で構成されているが、両嗅球におけるJC細胞の樹状突起と糸球体の投射関係には顕著な差があることが解明された。また、生後移動ニューロンの移動する割合は主嗅球と副嗅球で大きな違いが存在するが、副嗅球内の前半部・後半部への移動細胞数に関しては大きな差はないことが判明した。以上の結果は、主嗅球と副嗅球は類似した細胞群で構成されているが、その構造を維持する生後新生神経細胞の移動には両者に差があること、1種類の糸球体とJG細胞の支配関係も両者では大きく異なっている可能性が示唆された。哺乳類の鋤鼻神経回路の発生と維持を考察する上での重要な発見を得ることが出来た。
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