研究概要 |
今回,新たなミエリンミュータントモデル動物となる可能性があるVFラットの病態解析と原因遺伝子解析を行った.VFラットは,生後10日前後から全身の振戦症状を示すミュータントラットである.振戦症状は4~8週齢において最も顕著となるが,その後軽減する.病理組織学的には,脊髄白質を中心とした中枢神経系における神経軸索周囲の異常な空胞形成とミエリン低形成を特徴とする.また,この振戦形質は劣性遺伝し,原因遺伝子vfはラット第8染色体上に位置することが判明しているが,同定されていない.2,4,10,20週齢のホモ型ラットおよび対照(ヘテロ型・野生型)ラットの脳・脊髄を採材し,HE染色およびエポン厚切りトルイジン青染色を行い,形態学的な変化を経時的に観察した.マイクロアレイ,RT-PCR法,シークエンス解析により遺伝子変異を検討した.さらに,脊髄から抽出したmRNAを用いて,real-time PCR法により各週齢での原因遺伝子のmRNA発現量を比較した. ホモ型ラットの脊髄白質において,ミエリン低形成と軸索周囲の異常な空胞形成が観察された.4週齢のヘテロ型ラットでは,空胞病変は認められなかったが,野生型ラットと比較して軸索密度の低下と小径軸索の増加が観察された.これらの結果から,原因遺伝子はミエリン形成のみならず,軸索の発達や維持にも関与する可能性が考えられた. また,遺伝子解析の結果,ラット第8染色体に位置する遺伝子のうち,ホモ型ラットにおいて顕著な発現低下がみられた有力な候補遺伝子を発見した.ホモ型ラットの脊髄では,白質.灰白質においてこの原因遺伝子のmRNA発現の低下が認められた.この候補遺伝子およびそのタンパクの発現細胞については現在検討中である. VFラットは振戦症状および空胞病変が改善するというユニークな病態を示し,その病理発生の解析は,ミエリンの再生メカニズムを解明する上で有用であると考えられる.
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