乳牛の分娩後2~3か月以内の人工授精による受胎率の低下の主な原因は、卵胞内卵子の受精・発育能の低下にあると考えられる。したがって、このような場合は、人工授精ではなく、むしろ、正常な胚を子宮内に移植することによって、受胎率の低下を防ぐことができるものと考えられる。そこで、生殖機能回復のモニタリングを行い、生殖機能の回復状況に基づいて、和牛胚の移植を行うことが、乳牛の分娩後における受胎率向上に有効かどうかを明らかにするために試験を行った。また、今年度は、分娩後生殖機能回復モニタリングと、特に乾乳期から分娩後泌乳最盛期にかけての栄養状態のモニタリングを組み合わせた繁殖成績向上プログラム開発のための検討も行った。新潟大学農学部附属フィールド科学教育研究センターにおいては、これまで22頭についてモニタリングを行い、卵巣機能回復正常例8頭のうち6頭にETを行い、うち3頭が受胎した。広島大学附属フィールド科学教育研究センターでは、これまで45頭についてモニタリングを行い、卵巣機能回復正常例7頭のうち5頭にETを行ったが、受例はなかった。対照牛が得られなかった。2010年6月から3か月間、ドイツ・ハノーバー獣医科大学で行った共同研究においては、乾乳期からの栄養モニタリングを合わせて行い、乾乳期においてエネルギー不足を示す牛が21%、分娩後1か月以内に潜在性ケトーシスにり患している牛が29%いることを発見し、これらが、分娩後生殖機能回復に悪影響を及ぼしていることを認めた。
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