イヌ横紋筋肉腫組織より株化・継代されたCMS細胞株を無処置で培養、または1μMのall-transレチノイン酸(RA)を加えて低栄養条件(0.5% FBS)下で分化誘導を行った。オレイン酸(OA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、カルバサイクリンを濃度を変えて添加して3時間または6時間培養し、それぞれの脂肪酸がUCP3の発現量に及ぼす影響を検討した。細胞からRNAを抽出してcDNAを作製し、定量PCR法でUCP3の発現量を調べた。RA、脂肪酸を共に添加していないときの発現量を1として各条件と比較したところ、DHA、EPA刺激では分化条件下でも変化しないかまたはわずかな変動だけが見られた。一方、オレイン酸を添加したところ、UCP3の発現には大きな増加が見られ、この効果は分化条件下よりも未分化なものの方が高かった。従って、他の動物種で、DHAやEPAの有効性が高いと報告されているのとは異なり、犬ではOAが骨格筋のUCP3を効率よく増加させる可能性が示された。今回得られた結果は、これまであまり注目されることのなかったn-9系列の脂肪酸がイヌの骨格筋に強い作用を持つ可能性を示唆するものである。UCP3は余剰エネルギーを熱に変えることによって抗肥満効果を発揮することが齧歯類で実証されているので、イヌの肥満治療における食事療法の脂肪源としてオレイン酸を用いることが有効であると考えられた。また、今回得られた知見は、ヒトにおいて脂肪酸が代謝に及ぼす効果を調べる上でもn-9脂肪酸をこれまで以上に重視すべきであることを示唆するものであり、臨床栄養学的見地から重要である。
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