研究課題
本研究では、北方樹木由来のストレス耐性遺伝子を導入して環境ストレス耐性樹種の創製を目指して研究を開始した。材料には形質転換可能なモデル樹種かつ成長の早い交雑ポプラ(ハイブリッドアスペン、Populus tremula×P. alba)を、導入遺伝子にはニホンカラマツ(Larix kaempferi)木部柔細胞の冬季誘導性遺伝子群の中から複数のストレス耐性に関与する可能性を秘める候補遺伝子をそれぞれ用いることにした。本実験では、ラフィノース族オリゴ糖合成の基質のひとつであるガラクチノールを合成するガラクチノール合成酵素の遺伝子LkGolSを最初の形質転換に用いた。この標的遺伝子のcDNAを形質転換用ベクター(pBI121)のカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーター下流に挿入し、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens)法によってハイブリッドアスペンの形質転換を試みた。抗生物質(カナマイシン)耐性によって選抜された形質転換カルスから個体再生した後、導入遺伝子の発現状況をRT-PCRで検証し、LkGolSの発現量の多い株を選抜した。その後、緑葉を用いて糖組成を調べ、野生株と形質転換体とで組成の違いを比較したところ、ラフィノースの蓄積量が野生株より有意に増加した形質転換株が1系統見出された。また、緑葉の凍結抵抗性を測定したところ、ラフィノースの蓄積量が野生株より増加した1系統では、低温馴化後の凍結抵抗性が野生株より有意に高いことが判明した。今後は、これらについて茎の師部と木部の組織においても同様に比較することで、過冷却能ならびに細胞外凍結能におけるラフィノース族オリゴ糖の生理作用について検証する予定である。
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