本研究では、北方樹木由来のストレス耐性遺伝子を導入して環境ストレス耐性樹種の創製を目指して研究を継続している。材料に形質転換可能なモデル樹種かつ成長の早い交雑ポプラ(ハイブリッドアスペン、Populus tremula×P.alba)を、導入遺伝子にニホンカラマツ(Larix kaemferi)木部柔細胞の冬季誘導性遺伝子群の中からストレス耐性の候補遺伝子としてデハイドリン遺伝子を用いて形質転換体の作出を試みた。しかし、選抜と増殖が上手くいかず、現在再試行中である。また、すでに作出できたラフィノース合成遺伝子を導入した形質転換体に関しては、当該遺伝子発現によって緑葉、師部、木部の各組織でラフィノース含量が有意に増加したが、師部や木部の凍結抵抗性には明確な差は見られず、低温馴化した緑葉という限られた条件でのみ凍結抵抗性に差が見られた。そのためラフィノース蓄積のストレス耐性への関与が期待されるが、環境ストレス時の個体成長への影響等について、さらに詳細な条件検討に基づく検証が必要である。そのため、ラフィノース族オリゴ糖の蓄積によって、細胞外凍結する師部や緑葉と過冷却する木部の双方でどれだけストレス耐性に貢献できるかについて、引き続き研究を継続している。 さらに、フラボノール配糖体には抗氷核活性(過冷却促進活性)を有するものが存在することが当研究室により明らかにされた。一般的にフラボノイド配糖体は抗酸化性を示すものが多いため、過冷却促進活性を有するフラボノール配糖体の蓄積は、耐寒性と抗酸化能の双方の向上を期待できる。ただし、過冷却活性を有する特定のフラボノイド配糖体の合成を促すことが難しいため、フラボノイド合成を活性化するマメ科植物由来の転写因子MYB12の遺伝子を用いて形質転換個体を作出した。個体数が増えた時点で供試材料を選抜し、以降、環境ストレス耐性の評価を試みる。
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