研究概要 |
セルロースや不溶性澱粉などは,適当な亜臨界条件下で処理すると少糖類あるいは単糖類に糖化して可溶化することが知られている.他方,北海道に特徴的な馬鈴薯澱粉の製造に際しては,セルロースなどの繊維性多糖類を主成分とする搾汁残滓(製造残渣)が排出されることから,これらをモデル農産廃棄物とし,これを実験室規模で創出した亜臨界条件下(約5MPa,12MPa及び20MPaの圧力領域近傍)で処理した後に微生物(Saccharomyces cerevisiae)で発酵してエタノールに転換することを試み,併せて機器分析法によって処理に伴う分子挙動を調べた.その結果,製造残渣を亜臨界処理したところ,約5MPaから12MPa近傍の圧力領域において繊維性多糖類は全く単糖類へ糖化されず,また約20MPa近傍の圧力領域においては繊維性多糖類が呈色未知物質に変化し,いずれの亜臨界領域においてもエタノール発酵原料とならないことが明らかとなった.他方,これらのいずれの圧力領域において処理した残渣を原子吸光計によって測定したところ,亜鉛などの重金属類とリン酸などの無機塩類の遊離濃度が上昇していた.さらにこの標品をセルラーゼ等の酵素,あるいはAspergillus oryzaeなどのアミラーゼ分泌微生物で糖化すると,亜臨界未処理の残渣に比較して糖化が著しく進行し,さらにエタノール発酵における絶対生産量か大きく増加するとともに対糖モル収率も理論値に一致した.以上の結果は,authenticな繊維性多糖類と異なって実際の農産廃棄物においては重金属類や無機塩類の架橋効果によって繊維構造が化学的に強固となっていること,並びにこれらの強化因子は亜臨界処理によって遊離させることが可能であこと,さらに繊維構造強度低下の結果として資源への転換が可能でめることが示唆された.
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