急激な増加を続ける地球人口を支えるためには食糧増産が必須である。しかし乾燥化、塩類集積、土壌汚染などによる農地の荒廃は一段と進み、陸地面積の約30%は耕作に適さない問題土壌となっている。これら問題土壌の耕作地への転換が食糧増産への解決策として強く望まれている。酸性土壌は世界の問題土壌の約1/3を占めると言われ、酸性土壌の改良あるいはpH 2-4の酸性土壌でも作物を栽培できる技術の開発が急務となっている。酸性土壌では、アルミニウムイオン過剰、鉄などの重金属類過剰、可溶化したこれら金属イオンにより不溶性リン酸塩が生じリン酸欠乏となるなど、酸性だけでなく複合ストレスにより植物の生育阻害がおこる。われわれは酸性の問題土壌に適応した食用作物を開発するために必要な基礎的知見を得ることを目指し、これまでに強酸性の湿地や池に適応した植物の探索、生育環境の解析などを進めてきた。その結果、強酸性環境に適応した抽水植物Panicu mrepensやEleocharis dulcisの興味深い適応機構を発見するとともに、これら植物の酸性土壌の適応には共生微生物群が重要な役割を果たしていることを認めた。これら共生微生物群から優占種として高い酸耐性、Al耐性を示すAcidocella属細菌などを単離してきた。本研究では、Acidocella属細菌のゲノム解析をさらに進め、その酸性土壌適応機構に検討を加えた。その結果、不溶性のリン酸アルミニウム塩を可溶化する物質の同定から、その物質の合成遺伝子群の単離・解析を行った。また、酸性環境下では同菌が興味深い窒素動態を示すことを発見し、窒素動態で重要な働きをするアンモニア輸送チャンネルタンパク質(Amt)を解析したところ、機能が異なる複数のamt遺伝子を持つことを明らかにした。
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