昨年度の研究によりマウスメラノーマ細胞B16F10を低酸素条件(5%O_2)下で72時間培養することにより、細胞膜糖脂質の一つであるガングリオシドGM3含量が増加し、癌細胞運動能が亢進することが明らかとなった。そこで本年度はGM3含量が増加する機構および増加したGM3が細胞膜中で果たしている役割の解明を行った。低酸素培養を行ったB16F10においてGM3合成酵素遺伝子の発現量を測定したところ、GM3合成酵素mRNA量が対照群に比べて約10倍に増加していることが明らかとなり、GM3含量の増加は合成酵素の遺伝子発現の段階で調節されていることが示唆された。次いで、GM3が細胞膜マイクロドメイン中で形成している複合体について解析を行うため、低酸素培養したB16F10からショ糖密度勾配超遠心により細胞膜マイクロドメインを調製し、マイクロドメイン中のインテグリン存在量を測定したところ、低酸素培養によりインテグリンα5およびβ1のマイクロドメインへの局在が大きく増加することを見出した。しかしマイクロドメイン中のGM3含量には変化がなく、マイクロドメイン以外の場所でGM3含量が増加することで間接的にマイクロドメインの構造が変化し、細胞接着・細胞運動能が変化している可能性を示唆する結果が得られている。今後はマイクロドメイン中のインテグリン複合体に含有されるタンパク質の同定およびその定量が必要と考えられ、それらを明らかにすることで低酸素条件下での癌細胞浸潤亢進機構の新たな知見が得られることが期待される。
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