研究概要 |
超好熱菌由来のタンパク質には多くのイオン結合が存在し、そのイオン結合がタンパク質の高温での熱安定化に寄与していると推定されている。超好熱菌Pyrococcus horikoshii由来CutA1(PhCutA1)は変性温度(Td)が148.5℃という史上最高の熱安定性を示し、多くのイオン性残基を保持している。本年度は、まずPhCutA1を用いてイオン対が熱安定化にどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とした。3量体からなるPhCutA1のサブユニット内のイオン対変異型(E24A/Q, E63A/Q, E64A/Q, E71A/Q, D84A/N, E99A/Q)のTdは144-150℃の温度範囲で変化した。サブユニット間変異型(E15A/Q, D91A/N)のTdは140-148℃、サブユニット内サブユニット間両方に亘るイオン対変異型(E47A/Q, E67A/Q)のTd は146-147℃、サブユニット内で同じ二次構造内のイオン対を全て削除した変異型(14箇所の変異で9本のイオン対削除)のTdは141℃であった。いずれも予期したより顕著な低下は見られなかった。PhCutA1には正に荷電した残基の割合が高いため、今後は正に荷電したアミノ酸残基に焦点を当てる。もう一つの課題である「イオン結合導入による大腸菌由来のCutA1(EcCutA1)の熱安定性向上」に向けた予備実験では次の結果が得られた。野生型EcCutA1のTdはpH9において約90℃であるが、S11Aで17℃、E59Lで10℃、E61VによりTdが14℃上昇した。現時点で最も安定性が向上した変異型(S11V/E61V/Q73V)では、Td=117.8℃であり野生型に比べ29℃の改善が見られた。これらの変異による熱安定性の上昇は基本的に加算性を示すため、更なる安定性の向上が期待される。
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