スピロリド類は1995年にWrightらによって単離・構造決定された化合物群であり、ムスカリン受容体阻害作用等を示すことが知られている。ヘミケタールアルコキシドの分子内ヘテロMichael反応によるBCD環構築に向けて昨年度は基質の合成法を確立したので、本年度は環化反応を試みた。 THF中でIN塩酸を作用させてC22位のTES基を除去した後、生じた平衡混合物に対してTHF/MeOH混合溶媒中0℃でNaOMeを30分間反応させたところ、3種のジスピロケタール異性体が生成した。NOESYにより生成物の立体配置を決定した結果、主生成物はトランソイド異性体であり、望みのシソイド異性体は収率8%分しか得られていないことがわかった。反応時間を延長すると望みの立体異性体は消失したことから、所望の立体選択性を得るためにはより低い温度で反応を行う必要があることが明らかとなった。 BCD環構築と平行してDiels-Alder反応によるE環構築にも着手した。基質となるジエンは、L-グルタミン酸を出発原料とし、メチル基の導入、E配置のヨードアルケンとのカップリング、Wittig反応等を経て16工程で合成した。C28-C33位に相当するα-メチレンラクトンを求ジエン化合物としてDiels-Alder反応を行ったところ、反応は完壁な位置選択性かつ良好なエキソ選択性で進行し、溶媒としてρ-キシレンを用いて反応温度を220℃に設定した場合に最も良い結果を与えた。しかし、ジエンの面選択性には改善の余地を残したことから、全合成に向けてはジエンの修飾が不可欠なことがわかった。
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