研究概要 |
フッ素アニオンの特徴である,(1)酸化されにくい,(2)炭素-ケイ素結合を開裂(あるいは活性化)してアニオン(あるいはシリケート)を生成させる,という二つの特性を活用して,有機ケイ素化合物からカルボアニオンを発生させ,これをCe(IV)酸化剤で一電子酸化すれば炭素ラジカルが発生するのではないかという考えのもと,以下の検討を行った. まず,フッ素アニオンによって比較的容易にカルボアニオンを生成するアリルトリメチルシラン(1)を1,1-ジフェニルエテン(2)存在下,フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)と文献既知である(Bu_4N^+)_2Ce(NO_3^-)_6 3で処理し,予想通りにラジカルの生成とそれに引き続くオレフィンへの付加反応が起こるかどうかを検証した.実験操作は以下のように行った. すなわち,(1)の無水アセトニトリル溶液に室温にてTBAF(1M in THF)を滴下し,15分間撹拌した後,(2)を加え,つづいてCe(IV)酸化剤3の無水アセトニトリル溶液を滴下した.その結果,(2)を回収するとともに2種類の生成物が得られたが,これらはその^1H-NMRスペクトルより,ラジカル生成を示すような化合物ではないことが判明した.そこで,更に反応条件を種々検討したが,現時点ではラジカル生成を示すような化合物を検出するには至っていない.しかし,TBAF由来のフッ素アニオン存在下でCe(IV)酸化剤3が失活しないことを,Ce(IV)の存在を示す反応溶液の着色(黄色)によって確認することが出来たので,今後,更に異なるタイプの有機ケイ素化合物,フッ素アニオン源を用いて,反応を精査するとともに,用いるCe(IV)酸化剤についても,3だけではなく,他のものも検討する予定である.
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