研究概要 |
1.スギヒラタケ脳症の起因物質の一つと仮定した共役ケトン系脂肪酸PAの単離を行った。 1)スギヒラタケエキスの作成、分画 スギヒラタケ子実体の400gを精製水1,000mLに浸透してミキサーにかけ粉砕し、4℃で1日間、冷暗所に放置した。 綿栓ろ過後にろ液を5,000xgで遠心して上清を回収し、凍結乾燥にかけて濃縮エキス(明灰色粉末)を得た。エキスの収量は1.47gであった。 2)THP-1細胞における炎症性サイトカイン産生を御する共役ケトン系脂肪酸PAの単離 スギヒラタケのメタノールエキスから製した酢酸エチル可溶画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。脂肪酸豊富な画分をさらにシリカゲルカラムにて精製し、クロロホルム-メタノール系グラジェント溶媒で溶出させた画分をさらにODS-HPLC付して75%(v/v)メタノール25%(v/v)アセトニトリルで単離精製し、PA(3.2mg)を得た。 3.生物活性評価 1)ヒト単球性白血病細胞株THP-1における炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響 100μg/mLの濃度のスギヒラクケエキスをTHP-1に作用させ、24時間毎に96時間目まで経時的に培養液上清を回収してサイトカイン産生量を測定した。この結果、IL-1β産生は水エキスの添加から72時間後にプラトーに達し、TNF-αは培養開始から96時間目まで増加し続けた。また、スギヒラタケの水エキス濃度を1~200mg/mLに分けて細胞に添加したところ、濃度依存的に2種のサイトカイン産生は増加した。スギヒラタケ水抽出エキスによるTHP-1細胞刺激では、IL-1βよりもTNF-αのほうが常に高く分泌された。 2)シアル酸NeuAcおよびNeuGcのTHP-1細胞における炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響 スギヒラタケ高分子画分に含まれる多糖を構成する主要な2種のシアル酸類について実験、同様の検討を実施した。 1~200mg/mLの濃度のNeuAcとNeuGcをPMAで分化誘導したTHP-1細胞にNeuGcとNeuAcをそれぞれ作用させた結果、IL-1βおよびTNF-αともに濃度依存的な変生量増加が認められた。NeuAcおよびNeuGcのサイトカイン産生に及ぼす影響について比較した場合、同じ濃度におけるNeuAcのほうがNeuGcよりもIL-1βにおいて2倍、TNF-αにおいて1.4倍強いことが判った。 3)新規脂肪酸PAのTHP-1細胞における炎症性サイトカイン産生に及ぼす影響新規脂肪酸PAは,50μg/mLの濃度においてLPSによるTNF-αの産生をほぼ80%以上抑制した。この濃度のPAに5μg/mLのシアル酸をそれぞれ添加すると、TNF-α産生はさらに有意に抑制された。同条件におけるTHP-1細胞の生細胞率を調べたところ、PA単独処理では約20%の細胞障害活性を示し(P<0.05)、これにNeuAcを作用させることでPAのみよりもさらに、しかも有意に細胞障害活性が増強した。NeuGcにおいてもPA単独処理に比較して細胞生存率は低下の傾向を示したが、データには有意差は認められなかった。
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