本年度の研究実施計画に従い、フェナシルハライドに対してカルコゲニド及びホスフィン触媒存在下塩基を作用させエノラートを発生し、続くエノンへのMichael付加より始まるジアステレオ選択的シクロプロパン化を検討した。塩化メチレン中、塩基として水酸化ナトリウムを用いたフェナシルクロリドとメチルビニルケトンとの反応は、室温において2時間で反応は進行し、シス体とトランス体の混合物が70%得られ、それらの比は1:1であった。ところが、同条件下ホスフィン触媒としてトリブチルホスフィンを加えたところ、完全なトランス選択性を示し、68%でトランスーシクロプロパン体を得た。触媒をトリフェニルポスフィンに変えるとジアステレオ選択性は得られないことから、リンのルイス塩基性とナトリウムカチオンとの相互作用が重要であり、閉環反応の遷移状態において、エノラートアニオン・ナトリウムカチオン・ホスフィン触媒の複合体による立体制御により、トランス選択性を示すと考えた。一方、塩化メチレン中、塩基として水酸化リチウムを用いたフェナシルクロリドとメチルビニルケトンとの反応は、室温において反応速度が非常に遅く、24時間後にシクロプロパン体を19%で得たが、その選択比はシス:トランス=9:1とシス選択性を示した。これにジメチルスルフィドを加えると反応速度は加速され、目的物が全体収率40%と増加したがシス:トランス=2:1とシス選択性は低下した。触媒存在下、反応時間を5日まで延長すると、全体収率は78%まで増加され、シス:トランス=10:1と大幅にシス選択性が改善された。反応速度の増加は、スルフィドがスイス塩某として水酸化リチウムを活性化していることが原因と考えられる。
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