近年、金、白金、銅、パラジウム等の遷移金属触媒による不飽和結合の活性化をきっかけとする環化反応が多数報告されている。我々は取扱いが難しく高価な遷移金属触媒の代わりに、安定で安価、入手取扱い容易な環境調和型金属塩である13族インジウムを触媒として利用する連続(タンデム)反応を経る有用化合物の合成法の開発を目標とした。 薗頭反応により容易に合成可能なオルトアルキニルアニリン類とオルトアルキニルベンズアルデヒド類のような単純な化合物を出発原料とし、インジウム(III)を触媒量用いてタンデム反応を行うことにより、生物活性をはじめ多くの興味深い報告がある縮合複素環化合物のベンゾフェナンスリジン類を簡便に収率良く合成する方法を開発することができた。反応をプロトン核磁気共鳴スペクトルで追跡した結果を考え合わせると、インジウム(III)によるオルトアルキニルベンズアルデヒド類の三重結合の活性化→6-エンドダイゴナル環化反応→その結果生成したジエン体とジエノフィルであるオルトアルキニルアニリン類の高い位置選択性を伴うディールスアルダー型[4+2]付加環化反応→転位反応→脱水反応による最終化合物ベンゾフェナンスリジン類の生成が推測された。 この反応はインジウム(III)のルイス酸性、パイ電子配位性に代表される多機能性触媒能を利用した原子効率的連続反応であり、新たに炭素-炭素、炭素-炭素、炭素-窒素の三つの結合の一挙構築がおこり、ベンゾフェナンスリジン類が一段階で生成したと考えられる。この方法を適応することにより、有用な類似骨格化合物の合成も達成できると考えられる。
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