研究概要 |
2001年に申請者らは、ビナフチル型発色試薬をデザイン・合成し、それをキラル化合物に結合させた際観測される誘起円二色性を基盤とする「誘起CD励起子法」を開発した。その際、ジアステレオマーの関係にある、3α-コレスタノールと3β-コレスタノールの3位水酸基の絶対配置を明確に区別できることを見出していた。そこで、本年度は様々な構造を有する天然ステロール類への適用を検討した。 ステロール類をビナフチル型発色試薬と反応させ、得られた誘導体についてCDスペクトルを測定したところ、2つのタイプ(TypeA,B)に大別できることが分かった。すなわち、TypeAでは240nm付近のUV吸収領域で分裂型CDを示した(3S:正;3R:負)のに対し、TypeBでは210nmおよび240nm付近に2つのCDバンドを示した。TypeBでは分子内に存在する5位オレフィン発色団とビナフチル発色団との相互作用が少なからず影響していると考え、基質中に存在する全てのオレフィン部を接触還元後、誘導体化した。その結果、還元前のCDスペクトルと大きく異なり、検討した全ての場合において、TypeAと同様の分裂型CDを示した。本結果は、キラル2級アルコール類の検討結果と一致し、還元操作を必要とするもののステロール類においても3位水酸基の絶対配置を一義的に決定できることを示すものである。
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