研究概要 |
胆汁酸やカテコールアミン代謝物などはカルボキシル基を有しているが,このような化合物の中には最新の高性能LC-MS/MS装置を用いたとしても十分な応答を示さないものも多く,このことが唾液検査実現の隘路となっていた.そこで,2-picolylamine(PA)を用いて,これらカルボキシル基を有すホルモン関連物質のESI-MS/MS用検出指向誘導体化法を開発した.PA誘導体は誘導化前のカルボン酸と比較して9-158倍の高感度を示し,検出限界は注入量あたり数fmolに達した.そして,PA誘導体化を唾液分析に適用したところ,超微量の遊離型一次胆汁酸やホモバニリン酸などを少量のサンプル(100-200μL)及び簡便な前処理で検出することに成功した. 次に黄体や胎盤機能の指標となるプロゲステロン(PROG)の唾液中レベル測定法(同位体希釈LC-ESI-MS/MS)を構築し,月経周期や妊娠週数によるPROGの産生・分泌量の変動が唾液から読み取れることを示した. また,現在,甲状腺疾患の診断及び治療効果の確認は血中遊離型チロキシン(T_4)濃度に基づいているが,その測定では採血に伴う被験者の大きな負担や事前の平衡透析や限外濾過に由来する高コスト,簡便性の低さなどが問題となっている.そこで報告者は,同位体希釈LC-ESI-MS/MSによる唾液中T_4定量法を開発した.そして,開発した分析法を用いて健常人とバセドウ病患者の唾液中T_4濃度を測定したところ,後者の濃度が顕著な高値を示した【健常人(男性n=10,女性n=6),69.9±29.0pg/mL(平均±標準偏差);患者(n=2),675及び194pg/mL】.すなわち,本法を用いると,唾液にてバセドウ病診断が可能であることが示唆された.
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