研究課題
大麻は、我が国では覚せい剤に次いで押収量が多い乱用薬物である。乱用薬物の大部分は、国外から密輸されたものであり、取締り上、その密輸ルート及び国内での流通経路の解明が重要視されている。捜査部門の流通経路解明の科学的な支援としては、押収された試料同士が異なるか同一かを判断する"異同識別"を行い、押収された試料間の関連性を明らかにすることが有用である。そこで、主に、地球宇宙化学分野や環境科学分野で、物質の移動を明らかにするトレーサーとして用いられてきた安定同位体比に着目し、大麻抽出物についてガスクロマトグラフィー-安定同位体比質量分析(GC-IRMS)を行い、GCで分離されたピークごとの"GC-IRMSプロファイル"を得て、大麻の異同識別を行うことを目指す。初年度は、GC-IRMSを行う前検討として、測定が比較的容易である元素分析(EA)-IRMSを用いて、乾燥大麻の植物体そのものについて、分析を行った。茎、葉、種子のついているものは種子に分け、凍結・粉砕を行った試料につき、元素分析(EA)-IRMSで、炭素及び窒素安定同位体比(δ^<13>C及びδ^<15>N値)を測定した。その結果、部位による違いはほとんど見られなかったことから、次年度以降、葉を試料として用いることに決定した。併せてGC-IRMSを行うためのワーキングスタンダード(WS)とするため、いくつかの化合物についてδ値を決定し、GC-IRMSに適切なものを探索した。その結果、炭素については、C14,C16,C20の炭化水素と大麻に含有するβ-caryophylleneを、窒素についてはsalicylamideとtheophyline及び大麻に含有するhistidineを次年度以降のGC-IRMSで用いることとした。δ値を決定した化合物については、大麻以外の乱用薬物の測定のWSとしても使用することが可能であった。
すべて 2008
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Rapid Commun. Mass Spectrom. 22
ページ: 3816-3822